『なぜヒトだけが言葉を話せるのか』(原題 Speaking Our Minds、2015年)の著者トム・スコット=フィリップスは、進化認知科学者である。本の主張は短くまとまる。言語が生まれるには、その前に、ある種のコミュニケーションがすでに存在していなければならなかった。 それが「意図明示・推論コミュニケーション」である。
二つのコミュニケーション
コードモデル。 信号と意味が、あらかじめ結びついている。ミツバチのダンスや警戒の鳴き声のように、送り手が信号を出し、受け手がコードで解読する。
意図明示・推論。 送り手は、「伝えたい中身」だけでなく「いま自分は伝えようとしている」ことも相手に分からせる。受け手は、その証拠と文脈から、送り手の意図を推論する。信号の形は決まっていなくてよい。コーヒーカップを傾けて、ウェイターに「おかわり」を伝える、といった場面がこれにあたる(p.87–89)。
本の議論の流れ
| 章 | 主張 |
|---|---|
| 第2章 | 新しい信号が生まれる道は三つ。儀式化、感覚操作、そして直接経路。組み合わせ的な信号は自然界では稀で、直接経路(意図明示)があって初めて広く成り立つ |
| 第3章 | 意図明示を支える認知は、関連性の最大化と、他人の心を読む力(再帰的読心) |
| 第4章 | 大型類人猿のコミュニケーションは意図的だが、意図明示的とはいえない。ヒトだけが持つ理由を「社会脳」から探る |
| 第5章冒頭 | 言語は、意図明示・推論の上で、文化的に進化した(言語一般と個々の言語の区別) |
この特集の構成
| 記事 | 内容 |
|---|---|
| ①(この記事) | 概要 |
| ② | やさしい説明:メアリーと野イチゴ |
| ③ | 詳しく:コードから意図明示へ(第2章) |
| ④ | 詳しく:関連性と読心(第3章) |
| ⑤ | 詳しく:類人猿との比較と社会脳(第4章、第5章冒頭) |
読むうえで
この特集は、邦訳の該当箇所を読んで、ToLが要約したものである。原著の実験や事例の細部は、原書・邦訳書で確かめてほしい。