この本には、メアリーとピーターという二人が繰り返し登場する。二人は野イチゴのそばにいる。ここで、メアリーの行動を、段階を追って見てみよう。

段階1:ただ食べる

メアリーは野イチゴを摘んで食べている。ピーターがそれを見ている。メアリーが食べるのは、野イチゴが食べられるからだ。誰にも何も伝えていない。ピーターが「あ、食べられるんだ」と気づいても、それはメアリーの意図ではない(p.135)。

段階2:わざと見せる

メアリーは、ピーターが見ていると知っている。そして、野イチゴが食べられると、ピーターに信じてほしい。だから摘んで食べる。ふつうに食べるだけで、その目的は達せられる(p.135–136)。

これを本は、情報意図と呼ぶ。相手の考え(信念)を変えようとする意図のことである。

段階3:「伝えている」ことを知ってほしい

もう一歩進む。メアリーは、「自分が伝えようとしていること」まで、ピーターに知ってほしい。ふつうに食べるだけでは、これは伝わらない。ピーターは、「メアリーが食べているだけ」と思うかもしれない。

そこでメアリーは、わざとらしく、大げさに食べて見せる(p.137)。ピーターは、この大げさな様子を見て、「これは自分に向けて何か伝えているのだ」と分かる。これが伝達意図、つまり「自分に情報意図があると、相手に認識してもらう意図」である。

何が違うのか

相手に伝わるもの
ただ食べる野イチゴが食べられる(相手が自分で推論しただけ)
見せて食べる野イチゴが食べられる(情報意図)
大げさに食べる野イチゴが食べられる、そして「私はいま、あなたに伝えている」(伝達意図)

最後の段階では、動作の形に、決まった意味はない。大げさに食べることが「伝えている」の印になるのは、ピーターがメアリーの意図を推論するからである。これが、コードとは別の、意図明示・推論という仕組みである(p.140)。

本のねらい

著者は、この最後の段階、つまり「伝えていると示し、相手が推論する」やり方が、ヒト以外の動物にはほとんど見られず、言語が生まれるための土台になったと論じる(p.199–202)。次の記事から、その理由を詳しく見ていく。