『文章読本』の第七章「文章技巧」は、約3.1万字と、この本でいちばん長い章である(全体像の記事)。三島由紀夫は、ここで、小説の実践的な技巧——人物の描き方、自然の描き方、心理の描き方、行動の描き方、そして文法上の工夫——を、次々と論じる。この特集の7本では、その道筋を、原文で読む。
六つの節
| 節 | ページ | 中身 |
|---|---|---|
| 人物描写——外貌 | p.129–140 | 固有名詞と、外貌描写の役割。読者の想像力を刺激する技巧 |
| 人物描写——服装 | p.141–145 | 服飾描写の盛衰。明治の文体から、洋服の時代まで |
| 自然描写 | p.146–153 | 日本の作家は、なぜ風景描写にすぐれるのか |
| 心理描写 | p.154–165 | 平安朝の女流文学以来の、日本文学の十八番 |
| 行動描写 | p.166–173 | 行動は、文学の特技ではない。『太平記』の例 |
| 文法と文章技巧 | p.174–196 | 人称の問題。擬音詞。三島自身の実作の工夫 |
六つの節を、一言で
人物描写——外貌と服装——三島は、われわれが、現実の人間を、名前と外見によって識別することから話を始める。「そらあの男」という言い方から、固有名詞の意味まで。服装の描写は、明治の文体では重要だったが、洋服の時代には、意味を失いつつある(第2記事)。
自然描写と心理描写——日本の作家は、風景描写に世界的にすぐれている、と三島は言う。同時に、心理描写は、平安朝の女流文学以来の、日本文学の十八番である。この二つの描写を、三島は、日本文学の特質として、並べて論じる(第3記事)。
行動描写と文法——心理描写が文学の得意技だとすれば、行動描写は、そうではない、と三島は言う。行動は、外側からとらえられ、行為者自身には、何がわからないものを、第三者が観察する。そして、章の終わりでは、人称の問題や、擬音詞の使い方など、三島自身の実作に近い、文法上の工夫が語られる(第4記事)。
具体例の、宝庫
第七章は、これまでの章よりも、引用される作品の数が、はるかに多い。三島自身が作る例文に加え、尾崎紅葉『金色夜叉』、横光利一『寝園』、織田作之助『夫婦善哉』、そして『太平記』など、パブリックドメインの作品からの引用が、随所に現れる。一方、幸田文、武田泰淳など、著作権が存続している可能性のある作家の引用も多く、この特集では、それらの本文は引用していない。
この特集の構成
| 記事 | 内容 |
|---|---|
| 1(この記事) | 全体像 |
| 2 | 「人物描写」:外貌と服装 |
| 3 | 「自然描写」「心理描写」:日本文学の二つの得意技 |
| 4 | 「行動描写」「文法と文章技巧」:観察される行動と、人称の工夫 |
| 5 | 精読①:『太平記』の一節——行動描写の「第三者性」 |
| 6 | 精読②:擬音詞をめぐる、鷗外と大衆小説の対比 |
| 7 | 判定:この章の技巧論は、今も有効か |
まとめ
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| 分量 | 約3.1万字。本書でいちばん長い章 |
| 六つの節 | 外貌/服装/自然描写/心理描写/行動描写/文法と文章技巧 |
| 特徴 | 具体的な引用が多い。パブリックドメインと、著作権存続中の作品が混在する |
一言でいえば——第七章は、『文章読本』のなかで、もっとも実践的な章であり、三島が、小説の技巧を、豊富な実例とともに語る、技法篇である。