『文章読本』④ 文章技巧
「そらあの男」——固有名詞と外貌描写の逆説。風景描写にかけて世界に卓絶する日本の作家。「行動は外側からとらえられ、行為者自身には何もわからない」。本書でいちばん長い、約3.1万字の技法篇、第七章を原文で読む。
「文章技巧」を読む——外貌、自然、心理、行動、そして文法
この本でいちばん長い、約3.1万字の章。三島由紀夫は、人物の外貌と服装、自然、心理、行動という四つの描写と、人称という文法の問題を、次々と論じる。『文章読本』の技法篇、第七章の見取り図。
「そらあの男」——固有名詞と、外貌描写の秘密
名前を忘れたとき、われわれは「そらあの男、とても肥って……」と言う。三島由紀夫は、この身近な事実から、小説における固有名詞の意味を説き起こす。外貌描写は、なぜ詳しく書けば書くほど、かえって顔が浮かばなくなるのか。
自然が人物を圧倒する国——日本文学の、二つの得意技
人間と自然のあいだに対立のない東洋的世界では、風景描写が人物を圧倒する力をもつ、と三島由紀夫は言う。そして、心理描写は、平安朝の女流文学以来の、日本文学の十八番である。二つの「得意技」を読む。
行為者自身には、何もわからない——行動描写と、人称の工夫
行動は外側からとらえられ、行為者自身には何もわからないものを、第三者が観察する。三島由紀夫は、心理描写を得意とする日本文学が、もっとも苦手とする行動描写を論じ、章の最後で、人称や擬音詞という、実作の文法に踏み込む。
精読——『太平記』の橋合戦——動詞だけで進む、行動の文章
「走り渡り」「踏ぞんだる」「突きける」。三島由紀夫が引く『太平記』の一節を、原文に戻って読むと、そこには、心理も感情も、ほとんど書かれていない。動詞だけが、次々と積み重なる。行動描写の文章を、文の構造から確かめる。
精読——「チリンと鳴った」——鷗外の擬音詞は、なぜ少ないのか
「ガタ〳〵」「きん〳〵」と、感覚を惜しみなく注ぐ大衆小説の擬音詞。対して、鷗外の擬音詞は、抑えられ、数が少ない。三島由紀夫が対比させた二つの文体を、視覚と聴覚という、第二章から続く糸で読み直す。
判定——第七章「文章技巧」は、いまも実作の役に立つか
外貌、服装、自然、心理、行動、文法。三島由紀夫が並べた六つの技巧論のうち、原文で確かめられるものと、三島個人の美意識にとどまるものを、切り分ける。