この記事で分かること

先に結論です。 子どもは、親が示した例だけからでは決まらないことを、教わらないうちから知っています。その一つが、文は、語の直線的な並びではなく、句のまとまりでできているということです。ピンカーは、これを、疑問文の作り方と、子どもへの実験で示し、これが「言語の基本設計は生得的だ」というチョムスキーの論証の、中核だと説明します。

前提:チョムスキーの二つの事実(p.22)

ピンカーは、チョムスキーの論点を、二つにまとめます。

virtually every sentence that a person utters or understands is a brand-new combination of words, appearing for the first time in the history of the universe.

ToL訳 人が口にし、あるいは理解する文は、ほぼすべてが、まったく新しい語の組み合わせで、宇宙の歴史で初めて現れるものである。

だから、言語は、「応答の目録」ではなく、無限の文を作れるプログラム(心的な文法)を、脳が持っているはずだ、というのが一つ目。二つ目は、子どもが、教えられずに複雑な文法を発達させ、聞いたことのない新しい文にも、一貫した解釈ができる、ということです。ここから、子どもには、すべての言語に共通する設計(普遍文法)が、あらかじめ備わっている、と議論は進みます。

「親が教える」という俗説(pp.39–40)

ピンカーは、まず、「親が教える」という考えを、検討します。

つまり、マザリーズは、言語習得の必須条件ではない、というのが、ピンカーの結論です。

一角獣の疑問文(pp.40–42)

では、子どもが、教わらずに知っていることとは何か。ピンカーが取り上げるのは、チョムスキーの有名な例です。

平叙文を疑問文にする、簡単な手順を、考えてみます。

  1. A unicorn is in the garden.(一角獣が庭にいる)
  2. 助動詞 is を、文の先頭に移す → Is a unicorn in the garden?

うまくいきます。では、この「文を左から読んで、最初に出会った助動詞を、前へ動かす」という手順を、次の文に使うとどうなるか。

A unicorn that is eating a flower is in the garden.(花を食べている一角獣が、庭にいる)

最初の is を動かすと、Is a unicorn that eating a flower is in the garden? という、おかしな文になります。正しくは、2番目の is を動かして、Is a unicorn that is eating a flower in the garden? です。

なぜ、最初の is ではないのか。チョムスキーによれば、答えは、言語の基本設計にあります。

これを、構造に依存する規則と呼びます。

なぜ、これが「教わっていない」証拠か

チョムスキーの推論は、こうです(pp.41–42)。

ピンカーは、これを、「入力の貧困からの論証」と呼ぶ、とまとめます(p.42)。

子どもへの実験(p.42)

この主張は、実験でも確かめられた、と、ピンカーは述べます。心理言語学者クレインと中山が、3歳、4歳、5歳の子どもたちに、次のような遊びをさせました。

子どもたちは、機嫌よく、適切な疑問文を作りました。チョムスキーの予測どおり、単純な線的規則が作る、誤った文を作った子は、一人もいなかった、とピンカーは言います。

「意味で判断しているのでは?」への再反論(pp.42–43)

「主語が何かを、意味から推測しているだけでは」という反論も、考えられます。そこで、クレインと中山は、意味のない it を使った質問も混ぜました。「ジャバに、この絵で雨が降っているか聞いて」。Is it raining in this picture? の it は、何も指さない、文法のための穴埋めです。子どもたちは、これも、正しく処理しました。

さらに、ピンカーは、普遍的な制約が、有用性だけでは説明できないと述べます。助動詞を前に動かして疑問文を作る言語は、世界に散らばっているが、構造に依存する形で、必ず動かします。しかし、「最左の助動詞を動かす」「語の順を逆にする」といった、別の設計も、技術的にはありえた。人間の心は、鏡文字のような、逆順の発話も、やろうと思えば、できる。ところが、言語では、そうならない。これは、タイプライターのキー配列や、モールス信号のように、独立に、同一の規格を作った、というのと同じくらい、不自然だ、というのです(p.43)。

「-s」の一致(pp.43–45)

もう一つの証拠が、英語の三人称単数の「-s」です(He walks)。現代英語では、これは、ほとんど不要な、古い体系の名残です。しかし、使うには、四つの点を、毎回覚えておく必要があります(p.44)。

注意する点例
主語が三人称かHe walks / I walk
主語が単数か複数かHe walks / They walk
現在か過去かHe walks / He walked
習慣か、いまの動作か(アスペクト)He walks to school / He is walking to school

しかも、子どもは、この4つの要因を、文中のあらゆる情報(最後の語の音節数や、前置詞の目的語が、自然物か人工物か、など)から、取り出さなければなりません。

ところが、3歳半までに、子どもは、「-s」が要る文の9割以上で使い、禁じられる文では、ほぼ使わないとピンカーは言います(p.44)。サラ(仮名)という子は、Anybody knows how to scribble.、It looks like a donkey face. のような文を、正確に話しました(pp.44–45)。

さらに、サラは、親から聞いたはずのない形を話しました。He gots a scary one、She do’s what her mother tells her のような形です(p.45)。これは、自分で作った、無意識の一致規則の産物で、模倣では説明できません。そもそも、子どもが模倣者なら、飛行機の中で静かに座る親の習慣を、なぜ真似しないのか、とピンカーは皮肉ります(p.45)。

まとめ

読むうえで

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