この特集では、概要から始まり、ラスクの方法論、旅の生涯、原文の精読、そしてグリムとの関係までを見てきた。最後に、1818年のこの一冊を、二百年以上のちの言語学の視点から採点しよう。
確かに残ったもの
「語彙より文法を見よ」という原則は、今も比較言語学・歴史言語学の土台であり続けている。単語は借用されやすく、文法(とくに閉じた体系である語尾変化)は借用されにくいという観察は、のちの研究でも繰り返し確認されてきた——ただし現代の言語接触研究では、極端に濃密な接触状況のもとでは文法要素さえ借用されうることが分かっており、ラスクの「文法はほぼ絶対に借用されない」という言い切りは、今日ではやや強すぎる主張として、留保つきで受け止められている。それでも大枠の原則は健在だ。複数の言語系統にまたがる実例で確かめるという検証の姿勢、そして関係のない言語からあえて比較を始めるという誠実さも、方法論として今なお通用する。
個別の判定では、誤りもあった
だが、方法が正しくても、それを当てはめた個々の結論がすべて正しかったわけではない。ラスクはこの本のなかで、ケルト語派はゲルマン語派やラテン語・ギリシア語と同じ祖先を持たない、と結論づけていた。この判定は誤りだった——のちにケルト語派もインド・ヨーロッパ語族の一員であることが、フランツ・ボップらの研究によって確定する。ラスク自身、後年この誤りを認めている。正しい方法を使っても、個別の判断を誤ることはある——これは方法論への信頼を損なう話ではなく、むしろ検証可能な方法だからこそ、誤りに気づいて訂正できた、という健全さの証拠でもある。
五つの特集をつないで
この歴史特集は、ジョーンズの一段落、ラスクの懸賞論文、グリムの一枚の表、ミュラーの講演、そしてイェスペルセンの一冊の総合書——五人の仕事をたどってきた。ラスクの物語は、この特集群を貫くもう一つの教訓を加えている。功績は、発見した者にそのまま残るとは限らない。デンマーク語という言語の壁、体系化された「かたち」を持たなかったこと——こうした偶然に近い事情によって、ラスクの名前はグリムの陰に隠れた。だが、その方法論そのものの価値は、名前の残り方とは無関係に、今日まで生き続けている。
まとめ
| 評価 | 対象 |
|---|---|
| 確かに残った | 「語彙より文法」の原則、複数系統での検証、無関係な言語からの出発 |
| 修正された | 「文法はほぼ絶対に借用されない」という言い切り(濃密な接触では例外がある) |
| 誤りだった | ケルト語派をインド・ヨーロッパ語族の仲間はずれと判定(本人も後年訂正) |
一言でいえば——ラスクが打ち立てた方法論は、二百年以上のちも比較言語学の土台であり続けている。だがその方法を使った本人でさえ、個別の判断では誤ることがあった。方法の正しさと、結論の正しさは別物だ——この特集で読んできたすべての人物に共通する教訓が、ここでも繰り返されている。