このサイトのグリムの特集で読んだとおり、ヤーコプ・グリムが1822年に『ドイツ語文法』第2版を書き上げる直接のきっかけは、一つの懸賞論文だった。その論文の著者が、デンマークの言語学者ラスムス・ラスク(1787–1832)である。この特集で読む『古ノルド語(アイスランド語)の起源に関する研究』(1818) は、グリムの有名な表よりも4年早く世に出ている。

懸賞論文として書かれた一冊

1811年、デンマーク王立学術協会は、こんな問いを懸賞課題として掲げた——古ノルド語(アイスランド語)は、どの言語に由来すると、歴史的・批判的な確からしさをもって突き止められるか。この問いに、ラスクは1814年、27歳で答えを提出する。審査を経て刊行されたのが、1818年のこの本——表紙には「デンマーク王立学術協会が栄冠を与えた懸賞論文」と明記されている。

文法学者にして、旅する言語学者

ラスクはコペンハーゲン大学附属図書館の「第二司書」として、この本を書いた。だが彼の経歴は、書斎にとどまるものではなかった。1816年から1823年にかけて、スウェーデン、フィンランド、ロシア、ペルシア、インド、セイロン(スリランカ)と、当時のヨーロッパの言語学者としては破格の旅を続け、各地で写本を集め、現地の言葉を学んだ。この旅の途上で得た知見が、のちの著作にも生きている。だが働きすぎと過酷な旅の影響もあってか、1832年、44歳で世を去った。

グリムより先に、方法を打ち立てる

この本の核心は、個々の語源の当たり外れではない。**「二つの言語を比べるとき、単語の似ている・似ていないより、文法の対応関係のほうがはるかに確かな手がかりになる」**という方法論そのものである。この主張は、この特集の次の記事で原文とともに詳しく読む。グリムの特集で見たとおり、グリムは1819年の『ドイツ語文法』初版のあとにこの論文を読み、そこで示された「子音の規則的なずれ」という観察をきっかけに、1822年、分量を倍以上に増やした第2版を書き上げている。

1786 ジョーンズ 直観の提示 1811–18 ラスク 懸賞論文・方法論の確立 1822 グリム 表としての定式化 ラスクの方法論を読んでこそ、グリムの表の意味がよく見えてくる
ジョーンズからラスクを経てグリムへ。図:ToL

この特集の見取り図

この特集では、次の2本で、ラスクの中心的な方法論と、彼の波乱に富んだ生涯を、専門用語なしで紹介する。続く2本は、原文のデンマーク語とともに、方法論そのものと、実際の比較作業(グリーンランド語との対比など)を精読する。そして、グリムとの関係、比較言語学史における彼の位置づけを扱ったあと、二百年後の視点からの検証で締めくくる。

まとめ

論点内容
誰がラスムス・クリスティアン・ラスク(1787–1832、デンマーク)
代表作『古ノルド語(アイスランド語)の起源に関する研究』(1818)
成立の経緯デンマーク王立学術協会の懸賞論文(1811年課題、1814年提出)
意義グリムより4年早く、比較言語学の方法論を打ち立てた

一言でいえば——「グリムの法則」という名前の陰で、その方法をグリムより先に打ち立てていたのが、この旅する図書館司書だった。