前章で見たとおり、ラスクは「規則的な対応」という方法を打ち立てたが、その規則性がなぜ生じるのかにはまだ踏み込んでいなかった。この章では、その規則性が「表」になり、「法則」になり、「有機体」という比喩と結びついていく過程を追う。
584ページの表——グリム
1822年、ヤーコプ・グリムは『ドイツ語文法』第1部・第2版で、ゲルマン語派とギリシア語・ラテン語・サンスクリット語のあいだの子音対応を、一枚の巨大な表にまとめる。
Die ganze für Geschichte der Sprache und Strenge der Etymologie folgenreiche zweifache Lautverschiebung stellt sich tabellarisch so dar…
(言語の歴史にとって、また語源学の厳密さにとって、これほど重要な帰結をもたらす二重の音韻推移は、表にすると次のようになる……)(記事085)
ラスクが示したのは、言語どうしの対応が「規則的だ」という一般的な性質だった。グリムがしたのは、その規則性を、p→f、t→þ、k→h……という、具体的な表として一望できる形にすることである。この表は、のちにマックス・ミュラーによって「グリムの法則」と名づけられ、広く知られるようになる(記事091)——グリム自身は、この規則性を「法則」と呼んではいなかった。
例外の発見——ヴェルナー
この表には、当初、説明のつかない例外があった。father・brother のように、同じ環境にあるはずの子音が、なぜか片方だけ予測どおりに変化しない単語がある。この例外は、グリムの死後、デンマークの言語学者カール・ヴェルナーによって、アクセントの位置という、もう一つの条件を持ち込むことで解かれる(記事086)。例外にも、規則的な理由がある——この発想は、のちにブルークマンの世代が、もっと徹底した形で掲げ直すことになる(第4章)。
有機体という比喩——ボップ
グリムの表が刊行されたのとほぼ同じ時期、フランツ・ボップは、もっと大きな野心を抱いていた。個々の音の対応だけでなく、文法体系そのものを、複数の言語にわたって比較する。1833年、その集大成である『比較文法』の序文で、ボップはこう書く。
Ich beabsichtige in diesem Buche eine vergleichende… Beschreibung des Organismus der auf dem Titel genannten Sprachen…
(私はこの書物において、書名に挙げた諸言語の有機体についての比較的な記述を……意図している。)(記事113)
「有機体」(Organismus)——この一語が、この章のもっとも重要な転換点である。ボップにとって、これはまだ比喩だった。文法の語尾が、まるで生き物の器官のように、すり減ったり、化石化したりする過程を説明するための、分析の道具である(サンスクリット語の一人称語尾 -mi が、代名詞 ma の「すり減った」痕跡だという分析——記事114)。ボップ自身は、語根そのものの意味の謎には踏み込まないと、慎重に線を引いてもいる——「なぜ語根 I が『行く』を意味するのか、そうした問いは扱わない」(記事113)。
まだ比喩、しかし種は蒔かれた
概観の軸で見ると、この章は、まだ完全には「自然法則」の側に倒れていない。グリムの表は、あくまで観察された規則性の一覧であり、「なぜそうなるのか」という理論的な主張ではない。ボップの「有機体」も、あくまで分析を助ける比喩であって、「言語は文字どおり生きている」という主張ではなかった。
しかし、種はすでに蒔かれている。「対応表」という形式は、のちに「法則」という、自然科学的な響きを持つ言葉で呼ばれることになる。「有機体」という比喩は、のちの世代の手で、字義どおりの主張へと育てられていく——次章で見る、ミュラーとシュライヒャーの仕事である。
まとめ
| 人物(著作・年) | 何をしたか | 位置づけ |
|---|---|---|
| グリム(1822) | 子音対応を一枚の表にまとめる——のちに「法則」と呼ばれる | 規則性の可視化 |
| ヴェルナー(1875) | グリムの表の例外に、アクセントという条件を発見 | 例外にも理由がある |
| ボップ(1833) | 文法体系全体を比較し、「言語は有機体」という比喩で分析を支える | 比喩の誕生 |
一言でいえば——グリムが規則性を表にし、ボップが有機体という比喩を持ち込んだ。まだどちらも、言語を字義どおりの自然物とは呼んでいない。だが、次の世代がその一線を越えるための土台は、この11年間で、すでに整っていた。