概要記事で触れた、あの一文をもう一度見てみよう。
Die ganze für Geschichte der Sprache und Strenge der Etymologie folgenreiche zweifache Lautverschiebung stellt sich tabellarisch so dar: (言語の歴史にとって、また語源学の厳密さにとって、これほど重要な帰結をもたらす二重の音韻推移は、表にすると次のようになる。)
「二重の(zweifache)」という一語に、実は多くの内容が詰め込まれている。この記事では、この一文のすぐあとに続く表そのものを、一行ずつ読み解いていく。
三つの言語、二つの段階
グリムが並べたのは、ギリシア語(griech.)・ゴート語(goth.、ゲルマン語派で文献に残る最古の言語)・古高ドイツ語(alth.、Althochdeutsch)という三つの言語である。重要なのは、これが単なる三つ組の比較ではなく、左から右へ読む「変化の道筋」になっている点だ。三つの言語を並べるということは、そのあいだに二つの変化の段階があるということを意味する——ギリシア語からゴート語への段階と、ゴート語から古高ドイツ語への段階だ。これが「二重」の第一の意味である(現代の言語学では、前者はしばしば「第一次子音推移」、後者は「(高地)ドイツ語子音推移」と呼び分けられ、俗に「グリムの法則」というとき前者だけを指すことが多い——だがグリム自身は1822年の時点で、この二段階をひとつづきの現象として捉えていた)。
表は唇音(p系)・歯音(t系)・喉音(k系)の3系列に分かれて示されている。唇音の列を取り出すとこうなる。
| 第1列 | 第2列 | 第3列 | |
|---|---|---|---|
| ギリシア語 | P | B | F(Φ) |
| ゴート語 | F | P | B |
| 古高ドイツ語 | B(V) | F | P |
縦に読む。第1列——ギリシア語の無声閉鎖音Pは、ゴート語では無声摩擦音Fになり、さらに古高ドイツ語では有声音B(V)になる。第2列——ギリシア語の有声閉鎖音Bは、ゴート語で無声閉鎖音Pに、古高ドイツ語でFに変わる。第3列——ギリシア語の有声帯気音Φ(グリムのローマ字転写でF)は、ゴート語でBに、古高ドイツ語でPになる。歯音(T・D・TH)、喉音(K・G・CH)の列も、まったく同じ構造で並んでいる。
グリム自身が気づいていた「穴」
この表には、実はもう一つ興味深い点がある。喉音系列の表を見ると、ギリシア語Kに対応するゴート語の欄が空白(グリムの原文では「‥」)になっている。グリムはこの空白に自分で気づいており、表の直後でこう説明する。
Hieraus ergibt sich nunmehr, wie der Gothe die durch abgang der kehlasp. entspringende lücke deckt: er bedient sich anlautend statt ch des spiritus h, in- und auslautend zuweilen des h, häufig aber auch der med. g. (これによって次のことがわかる——喉音の帯気音が欠けることで生じるこの空白を、ゴート語話者がどう埋めているかということだ。語頭では ch の代わりに気息記号 h を用い、語中・語末ではときに h を、しかしそれよりも多く有声音の g を用いる。)
きれいな三段の対応表を示したすぐあとに、自分の体系にうまく収まらない実例があることを、隠さずに書き添えている。これは些細な注記に見えるかもしれないが、実はここに、この法則が抱えていた最大の弱点の芽がある——「規則的に対応する」はずの音が、なぜか環境によって二通りに現れる。この理由のわからない例外が、グリムの死後およそ十年、まったく別の角度から解き明かされることになる。その顛末は、この特集の次の記事で読む。
まとめ
| 表の構造 | 意味 |
|---|---|
| 3言語(ギリシア語・ゴート語・古高ドイツ語)を並べる | 2段階の音韻推移(第一次子音推移+高地ドイツ語子音推移)を一つの表にまとめる |
| 縦の3行を読む | ある音が、二段階を経てどう変わるかをたどる |
| 唇音・歯音・喉音の3系列 | まったく同じ循環構造が、調音の場所ごとに繰り返される |
| ゴート語の喉音の空白 | グリム自身が認めていた、体系に収まらない例外 |
一言でいえば——グリムが示した表は、単なる音の対応リストではなく、二段階の歴史的変化を一望できる地図だった。そしてその地図には、グリム自身の手で、まだ埋まっていない場所が正直に書き込まれていた。