橋本進吉
「花が 咲いた」——声に出して切れる所で文を区切る「文節」と、奈良時代の万葉仮名が二つのグループに厳密に書き分けられていたという発見。橋本進吉は、日本語の現在と過去の両側で、「確かめられる事実」を積み上げた。『新文典別記』(1935) と『古代国語の音韻に就いて』(1942) を読む。
橋本進吉を読む——「文節」と「上代特殊仮名遣」、二つの発見が日本語の見え方を変えた
学校で習う「文節」に区切る文法と、奈良時代の日本語には今より多くの音の区別があったという発見。橋本進吉(1882–1945)は、まったく別の二つの場所で、日本語の姿を書き換えた。原典は『新文典別記』(1935) と『古代国語の音韻に就いて』(1942)。
文節とは何か——文を「切れる所」で区切ると、日本語の骨組みが見えてくる
「私は昨日図書館で本を借りた。」——この文は、いくつのかたまりでできているか。「ね」を入れて確かめると、日本語の文が、どんな部品の並びでできているかが、目に見えてくる。橋本進吉が作った、学校文法の土台を、専門用語なしで紹介する。
上代特殊仮名遣とは何か——奈良時代の人は、今の「き」を二つの音で言い分けていた
「雪」の「き」と「月」の「き」は、奈良時代の書物のなかで、決して同じ漢字では書かれない。今の私たちには同じ「き」に聞こえる音が、千三百年前の日本語では、はっきり二つに分かれていた。文字の使い分けから、消えた音の区別を掘り起こした発見を、専門用語なしで紹介する。
精読——「その間を切る事はありません」——文節の土台になった、独立する語と附属する語の区別
学校で習う文節の考え方は、橋本進吉が、単語を「独立する語」と「附属する語」に分けたところから始まる。基準は、意味ではなく、実際に声に出したとき、間に切れ目を入れられるかどうか。『新文典別記 上級用』(1935) の第一章を、原文で読む。
精読——「實に思ひがけないことであります」——万葉仮名の二つのグループを見つけるまで
橋本進吉は、この発見を、自分一人の手柄にしなかった。江戸の国学者・石塚龍麿の埋もれた写本、本居宣長の観察、そして自分の整理。『古代国語の音韻に就いて』(1942) の講演記録を、発見が積み上がっていく順に読む。
遺産と影響——学校文法の土台になった文節、そして有坂秀世へ受け渡された八つの母音
橋本進吉の二つの仕事は、その後、まったく違う道をたどった。文節は、教室で日本語を教える言葉として、広く根づいた。上代特殊仮名遣は、より若い研究者たちの手で、「奈良時代の日本語には八つの母音があった」という大きな仮説へと発展していく。
判定——橋本進吉の二つの発見は、いま、どこまで生きているか
上代特殊仮名遣は、今日の古代日本語研究の、動かない前提になっている。一方、文節は、教室では欠かせないが、研究の現場では、そのまま万能の単位とは見られていない。同じ一人の学者の二つの仕事が、まったく違う評価を受けている。