この特集がここまで読んできたウィリアム・ジョーンズ、ヤーコプ・グリム、マックス・ミュラー——三人はそれぞれ、一つの発見、一つの法則、一つの講演を軸にした人物だった。オットー・イェスペルセン(1860–1943)は、そのすべてを受け継いだ次の世代にあたる。デンマーク・コペンハーゲン大学の英語学教授だった彼が還暦を過ぎて書き上げたのが、この特集で読む『言語——その本質・発展・起源』(1922) である。
英語学者にして、国際語の設計者
イェスペルセンはコペンハーゲン大学で英語学の教授を務め、7巻におよぶ大著『歴史的原理にもとづく現代英語文法』をはじめ、生涯に数十冊の著作を残した。音声学の教育法にも力を入れ、教室での実践的な語学教育(のちに「直接教授法」と呼ばれる流れ)を早くから唱えた一人でもある。晩年の1928年には、エスペラントの流れを汲む国際補助語「ノヴィアル」を自ら設計してもいる——言語を研究するだけでなく、自ら新しい言語を作ってみせた、この時代の言語学者としては異色の経歴の持ち主だった。
一冊にまとめる、という仕事
『言語』は、4部21章からなる大部の一冊である。
- 第1部「言語学の歴史」——1800年以前から19世紀末まで、この特集で読んできたジョーンズ・グリム・ミュラーらの仕事を含む、学問としての言語学の歩みを概観する。
- 第2部「子ども」——子どもがどのように母語を身につけていくかを、音・語彙・文法の面から検討する。
- 第3部「個人と世界」——外国語学習者、ピジン語、そして「女性」という、言語と社会の接点を扱う。
- 第4部「言語の発展」——語源、言語は進歩しているか衰退しているか、文法要素の起源、そして言語そのものの起源という、もっとも大きな問いまで。
19世紀を通じて積み上げられてきた比較言語学の成果を、一人の書き手が、一般読者にも読める一冊にまとめ上げた——これが『言語』という本の位置づけである。専門的な発見の書ではなく、総合と評価の書だと言ってもよい。
この特集の見取り図
この特集では、次の2本で「言語は進歩している」という彼の挑発的な主張と、子どもの言語獲得についての先駆的な観察を、専門用語なしで紹介する。続く2本は、ピジン語への意外なほど公平な視線と、言語起源論の諸理論をめぐる原文を精読する。そして、この特集でもっとも重く扱うのが「女性」の章——現代の視点からは明らかに問題のある主張が、堂々と展開されている。最後は、これらすべてを二百年近い視点から採点する記事で締めくくる。
まとめ
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| 誰が | オットー・イェスペルセン(1860–1943、デンマーク・コペンハーゲン大学) |
| 代表作 | 『言語——その本質・発展・起源』(1922) |
| この本の位置づけ | 19世紀比較言語学の成果を一冊にまとめた総合書 |
| もう一つの顔 | 国際補助語「ノヴィアル」の設計者(1928年) |
一言でいえば——イェスペルセンは、ジョーンズ・グリム・ミュラーが積み上げてきたものを受け取り、そこに子ども・ピジン語・言語の起源という新しい問いを加えて、一冊の書物にまとめ上げた人物だった。