英語圏の子どもは、geese(ガチョウ、複数形)を gooses と言い、knives を knifes と言う。日本語の子どもも、「食べた」の類推で「寝た」を「寝った」と言ったりする。これは単なる言い間違い、片づけていいものだろうか。イェスペルセンは、この「間違い」のなかに、驚くほど整然とした法則を見出した。

なぜ母語は、これほどうまく身につくのか

イェスペルセンはまず、一つの問いを立てる。外国語を学ぶときは、専門の教師、教科書、辞書、体系立てられたカリキュラムが用意されている。それでも大人になってから学んだ外国語は、たいてい不完全にしか身につかない。ところが母語はどうか——専門の教師もおらず、行き当たりばったりに、耳で聞くだけで、しかもどんなに平凡な子どもでも、最終的には完璧に使いこなせるようになる。この非対称は、なぜ起きるのか。

「間違い」を集めてみると

答えの手がかりは、子どもの「間違い」そのものにある。イェスペルセンが集めた実例を見てみよう。

複数形の規則化 geese → gooses knives → knifes 最上級の規則化 good → goodest bad → baddest 逆方向の類推 thieves から chiefs → chieves どの例も、でたらめではなく「規則を一貫して適用した」結果になっている
子どもの「言い間違い」に見える規則性。図:ToL

でたらめではなく、「規則に忠実すぎる」

こうして並べてみると、共通点が見えてくる。子どもは単語を一つひとつ丸暗記しているのではなく、「複数形は -s をつける」「最上級は -est をつける」という規則そのものを取り出し、手持ちのすべての単語に一貫して適用している。geese や knives のような不規則形は、大人の言語からそのまま聞き覚えて特別に記憶しなければならないものだが、子どもはまだその「例外」を学習しきっていない段階で、規則のほうを先に、しかも忠実に使ってしまう。つまり子どもの「間違い」は、規則を知らないから起きるのではなく、規則を知りすぎているから起きる。イェスペルセンはこの働きについて、こう述べている。

…each of us thus now and then really creates something never heard before by us or anybody else. (……こうして私たちは誰もが、ときに、自分自身も他の誰も、それまで一度も耳にしたことのない形を、本当に作り出しているのである。)

まとめ

論点内容
出発点の問い母語は、体系立てて教わらないのに、なぜこれほど完璧に身につくのか
集めた実例gooses、tooths、goodest、chieves、“who is that’s” など
見えてきた規則性子どもは規則を取り出し、手持ちのすべての単語に一貫して適用している
「間違い」の正体規則を知らないからではなく、例外をまだ覚えていないだけ

一言でいえば——子どもが言う「gooses」は、単なる勘違いではない。それは、大人がとうに忘れてしまった「規則をどこまでも律儀に適用する」という力が、まだ生きたまま働いている証拠だ。