上田万年
「おこりっぽい」の「ぽ」は、なぜ「ぽ」なのか。ハ行はもとP音だったと論じた音の研究者は、同じ手で、「国語」を国家の課題として語った。『国語のため』(1897)『国語のため 第二』(1903) を読む。
上田万年を読む——「国語」という枠組みを作り、ハ行はもとP音だったと論じた人
「おこりっぽい」「しめっぽい」の「ぽ」は、なぜ「ぽ」なのか。上田万年(1867–1937)は、この小さな事実から、日本語のハ行は古くはP音だったと論じた。同じ人が、「国語」という考え方そのものを、国家と結びつけて世に問うた。『国語のため』(1897)『国語のため 第二』(1903) を読む。
「おこりっぽい」の「ぽ」は、なぜ「ぽ」なのか——ハ行がもとP音だった証拠
「おこり」に「ほい」がつくと、「おこりっぽい」になる。「ほい」ではなく「ぽい」。同じことが「しめっぽい」「さつまっぽう」にも起こる。上田万年は、この小さな癖に、千年以上前のハ行の音の名残を見た。
「もって」「いって」の「っ」は、どうやってできたのか——促音の仕組み
「持ちて」が「もって」に、「行きて」が「いって」になる。真ん中の音が消えて、「っ」が生まれる。この現象を、上田万年は「促音」と呼び、音が消える仕組みを、ローマ字に書き直して見せた。
標準語は、どうやって作られるのか——「もと一個の方言」という考え方
標準語は、誰かが理想の言葉を発明したものではない。上田万年は、ドイツやイギリスの例を引きながら、標準語も、もとはどこかの方言だったこと、そして、人の手で磨かれ、保たれてきたことを説明した。「標準語に就きて」を読む。
精読——「B=(?)=P」——濁音から、消えた清音を逆算する
バ行の濁音「ば」に対応する清音は、「は」なのか、「ぱ」なのか。上田万年は、タ行とダ行、カ行とガ行の関係から、この問いを解く。さらに、梵語の音の写し方と、アイヌ語の中の日本語から、証拠を重ねる。「P音考」の推理の運びを、原文で読む。
精読——「一國一般の言語」——「国語と国家と」は、何を言っていたのか
言語の一致と、人種の一致を、国家の課題として守れ。上田万年は、『国語のため』(1897) の巻頭で、そう述べた。同じ文章に、「言語は精神の化身」という、言語観の核心も書かれている。称賛も断罪もせず、当時、何が言われたかを、原文で確かめる。
遺産と判定——音の推理は生き残り、「国語」の主張は問い直された
ハ行はもとP音だったという上田万年の推理は、現在の通説の骨格になった。促音の説明も、今も使われる。一方、「言語の一致と人種の一致を守れ」という「国語と国家と」の主張は、後の時代に、大きく問い直されることになった。二つの仕事を、分けて採点する。