前の記事で見た「P音」の話と並んで、上田万年が『国語のため 第二』で取り上げた、もう一つの身近な現象が、「促音(そくおん)」である。小さい「っ」で書く、あの音である。
「持ちて」は、なぜ「もって」になるのか
上田は、次の四つの例を挙げる。
| もとの形 | 今の形 |
|---|---|
| 持ちて | もって |
| 行きて | いって |
| 寄りて | よって |
| 一杯 | いっぱい |
どの例も、真ん中の音が消えて、「っ」に変わっている。上田は、これを、ローマ字で書き分けて、仕組みを見せる。
| 語 | もとの形 | 今の形 |
|---|---|---|
| 持ちて | mo-ti-te | mot-te |
| 行きて | i-ki-te | it-te |
| 寄りて | yo-ri-te | yot-te |
| 一杯 | i-ti-pai | ip-pai |
起こっていること
ローマ字に直すと、何が起こったかが、はっきり見える。
- 持ちて:mo-ti-te → mot-te。「ち」(ti)の母音 i が消え、残った子音 t が、後ろの t に、同化した。
- 行きて:i-ki-te → it-te。「き」の k が、後ろの t と同じ音になった。
- 一杯:i-ti-pai → ip-pai。「ち」が、後ろの p と同じ音になった。
上田は、この現象を、こう整理する。子音(P・H・T・K・R・S など)が、アクセントのない母音に従われて、P・H・T・K・S で始まる音節の前に立つとき、前の子音は、たいてい、後ろの P・T・K・S に同化して、その一つ前にある音節の母音を、促音として促し、自分は消え失せる。
つまり、「っ」は、後ろの子音と、そっくり同じ子音が、二つ重なったもの、と見ることができる(mot-te の tt、ip-pai の pp)。
上田が、答えなかった問い
もう一つ、この論文で注目したい点がある。上田は、この促音が、上古から日本語のなかに存在したのか、それとも、漢学(漢字音)の影響で生まれたのか、という問いを、意図的に「別問題として、他日の攻究に譲る」と書いている。目の前の実例から、その性質を見る、というのが、この論文の立場である。
上田は、促音の書き方にも触れ、「っ」を小さく横に寄せて書く方法が、今日、最も便利だろう、と述べている。これは、現在の私たちが使っている書き方と同じである。
この記事で確かなことと、そうでないこと
この記事で見たのは、上田が挙げた例と、その整理である。「持ちて→もって」が、後ろの子音への同化によって説明できる、という点は、日本語の音の説明として、今日でも広く使われる考え方である。一方、促音の起源についての問いは、上田自身が保留している。
まとめ
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| 促音の例 | 持ちて→もって、行きて→いって、寄りて→よって、一杯→いっぱい |
| 仕組み(上田の整理) | 前の子音が、後ろの子音に同化し、前の音節の母音を促して、自分は消える |
| 「っ」の正体 | 後ろの子音と同じ子音が二つ重なったもの(mot-te、ip-pai) |
| 保留した問い | 促音は上古からあったのか、漢字音の影響なのか |
一言でいえば——「もって」の「っ」は、「ち」の母音が消え、残った子音が、後ろの子音と同じ音に変わってできる。上田万年は、その仕組みを、ローマ字で見せた。