概説記事で予告した、一つ目の話題は、語のつくり方である。金沢庄三郎は、『国語の研究』(1910) の「耳目鼻口」という章を、語の成り立ちの一般的な話から始めている。

物の名から、動作の名へ

金沢は、こう述べる。語の成り立ちは、種々さまざまだが、その中に、作用(動作)を以て物の名とし、また、物の名に依って作用を名づける、一つの種類がある、と。

まず、動作から物の名の例。

次に、物の名から動作の名の例。金沢は、次のような例を、いくつも挙げる。

物の名動作の名
曇る
力む
頸(くび)縊る(くびる)
取る

たとえば、「雲」があるから、空が「曇る」。「頸」で行うことだから「縊る」。「手」でするから「取る」。物の名が、そのまま、それに関わる動作の名の、もとになっている。

物の名 → 動作の名(金沢庄三郎の挙げた例) 曇る 取る 頸(くび) 縊る 力む 逆向きの例:截り断つ(動作)→ 太刀(物の名) 図:ToL
物の名と、動作の名の、行き来。図:ToL

この仕組みを、目に当てはめる

金沢は、この見取り図を、そのまま、体の部分に当てはめる。「目の働きを見るといふのも、その一例だ」と述べる。つまり、「目」という物の名があって、「目でする動作」に「見る」がある、というのである。同じ考えで、鼻・耳・口を並べて見ていく。その展開を、次の記事と、原文精読で追う。

ここで、確かなことと、そうでないこと

物の名から動作の名ができる、あるいはその逆に、動作から物の名ができる、という現象は、日本語の語の成り立ちの説明として、今日でも広く見られる。ただし、個々の語について、どちらが先かは、決めにくい場合もある。「太刀は『截り断つ』から」も、金沢の説明である。この記事では、金沢が挙げた例を、金沢の見方として紹介した。

まとめ

論点内容
仕組み物の名から動作の名ができ、動作から物の名ができることがある
物→動作の例雲→曇る、力→力む、頸→縊る、手→取る
動作→物の例截り断つ→太刀
目への当てはめ「目」という物と、「見る」という動作を、同じ見取り図で捉える

一言でいえば——日本語には、物の名から動作の名を、また動作から物の名を作る仕組みがある。金沢庄三郎は、その見取り図を、目・鼻・耳・口へ広げていった。