大槻文彦の特集では、辞書という「単語の集まり」を扱う仕事を読んだ。この特集で読む山田孝雄(1873–1958)は、単語がどう組み合わさって「文」になるのか——日本語の文法そのものの仕組みに挑んだ人物である。

富山の書店員から、文法学の巨人へ

山田孝雄は、富山県出身。正規の高等教育をほとんど受けず、独学で国学・文法学を修めたという、当時としては異色の経歴を持つ。この特集で読む『日本文法論』(1908年、宝文館) は、彼が35歳のときに刊行した、序論・本論二部から成る大著である——本論は第一部「語論」(単語の理論)と第二部「句論」(文の理論)に分かれ、全体で二千頁近くに及ぶ。

まず、全員を斬ってから、自分の話をする

この本のもっとも際立った特徴は、その構成にある。山田は、自分の理論を語り始める前に、江戸時代から明治までの、ほぼ全ての主要な文法家の学説を、一人ひとり名指しで検討し、批評するという作業を、各章の冒頭で必ず行う。富士谷成章、本居宣長、鈴木朖、東条義門、大槻文彦——先行研究のレビューだけで、優に一冊の学説史ができあがるほどの分量である。

この徹底した批判的検討のうえに、山田は自分独自の理論を打ち立てていく。その中核にあるのが、この特集で読む二つの理論——陳述論(文はなぜ「完結する」のか)と、係り結び(古典日本語に特有の、文末を決める呼応の仕組み)である。

先行研究の徹底批評 富士谷・本居・鈴木・大槻…… 一人ひとり名指しで検討 山田自身の理論 陳述論・係り結び論 批評のうえに立つ 自説を語る前に、全員の説を斬る——山田の一貫した方法
『日本文法論』の構成——批評、そして理論。図:ToL

この特集の見取り図

この特集ではまず、山田文法の二つの核心——陳述論(同じ単語の並びでも、文末の形が変わるだけで「言うこと」の種類そのものが変わる、という理論)と、係り結び(「ぞ」「こそ」のような助詞が、文末の活用形を遠く離れたところから決めてしまう、古典日本語特有の仕組み)を、専門用語なしで紹介する。続いて、『日本文法論』の原文を精読し、山田自身がこの二つの理論をどう説明しているかを読む。そして、山田文法のその後の展開、最後に現代の日本語学からの検証で締めくくる。

まとめ

論点内容
誰が山田孝雄(1873–1958、富山県出身、独学の国学者)
代表作『日本文法論』(1908年)
方法の特徴自説を語る前に、先行するほぼ全ての文法家を名指しで批評する
中核の理論陳述論(文の完結性)と、係り結び論(呼応の仕組み)

一言でいえば——山田孝雄は、先人たちの学説を一人残らず斬ってから、日本語の文がなぜ「完結した一つのまとまり」になるのかという、根本的な問いに、自分の答えを打ち立てた。